歌は吐く息(呼気)からはじめない
さて、歌い出しについてです。
歌は必ず「吸う息」からはじまります。それは即ち「バックスウィングのある歌い出し」をするということです。
肉体を使った何らかの技術的なお仕事等をされている方は、技術習得において呼吸の担う役割の重要さを認識されているかと思いますが、普段の日常生活の中で呼吸を意識している人はそう多くはありません。
例えば我々がジャンプする前には予備動作がありますね。
人や物体の動きにはこのような予備動作を観察することができます。
この予備動作がバックスウィングのことです。
歌において、呼吸はそのまま演奏の質を露骨に左右するとても大きな課題です。
息を「吸っているときにできること」と「吐いているときにできること」は異なります。したがって、歌において、吐く息になってから何かをやろうとしても既に遅いという現象が起きます。
ボールの投球に例えると、手から離れたボールがどのように動くのか?を研究する時、「手から離れるまでの間の動き」に着目すべきですね。
空気は断続的に動いていますから、歌い始めたらそれっきりというわけでもありませんが、何らかの現象には必ず原因があります。
音楽は、音になる前に全てが決まっています。
耳に聴こえた音、体感、全ては「結果」であり、「結果」を直接コントロールすることはできません。
吸う・吐く・吸う・吐く・・・・と繰り返される「動き」は、我々が普段から目にする「自然の動き」のひとつです。
身近なところで目にするこの動きは?
…ブランコ・振り子と同じです。
歌い出しは必ずブランコの揺れの端っこにあります。
息を吸い、吐く息に入る前に一瞬、無重力のような体感と共に動きが止まります。そこからゆっくりと空気が動き出し、声が立ち上がります(声帯の振動が始まる)。この自然の中の動きに乗っかって始めてコントロールが可能な歌い出しとなります。
この時点で、ブランコの動きを無視したような歌い出しをすると呼気圧が過剰になり自由に歌うことができません。
ジャンルを変えれば目的とする音や環境が異なりますので呼気圧の具合も様々ですが、器楽的な機能を最大限に活かす時の歌い方として、声帯の振動の始まりは上記のようなブランコのスウィングの中にある必要があります。
アニメーション制作における基礎として、動きの始めをゆっくりにし動きの終わりをゆっくりにする「スローインスローアウト」というテクニックがあります。これはブランコ・振り子の動きでも同様の動きを観察することができます。
動きをより自然に描画するためのテクニックですから、これは自然な動きを見つけるには大きなヒントになります。
予備動作や動きの緩急に着目し、身近なものを観察すると、そこには歌唱のヒントがつまっていることがあります。
歌は空気を扱います。
ですが、私たちは空気をこねたりして直接コントロールすることができません。
理にかなった動きを理解し、そこに誘導する、というのが歌唱におけるテクニックなのです。
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