歌うたい桜歌の雑記帳

カテゴリー: 歌唱力向上のための手引き

③子音と母音に時差をつける(子音と母音の分離)

子音と母音に時差をつける(子音と母音の分離)

美しい歌声…とひと口に言っても人によって好みはあるのですが、ピッチの安定した楽音という視点からみた時、声というものを器楽的に扱うということが必要になってきます。
ピッチの安定した楽音という視点がそもそも洋楽的な視点ですが、そのような器楽的な機能を阻害しないで歌うためには「日本語」からの脱却が必要になります。

なぜでしょうか?

「楽器として声を扱う」ためには、声帯の振動を安定させる必要があります。
声帯の振動は母音の役割です。
子音と母音というのは機能が異なるため、「50音」で歌っている限りその機能を別々に扱うことができません。そのためには、我々日本人には特に大きなハードルがあるのです。

 

私達日本人は「50音」で発音しています。子音と母音という概念がそもそも存在しません。

「ま」は「ま」ですし、「た」は「た」です。

(西洋音楽に根っこのある音楽を演奏するにあたって)「日本人は歌が下手」だと言われることの所以は、基本的にアルファベットの言語を扱う海外とは発音が大きく異なることが原因のひとつです。

もともと五線譜の音楽が生まれた土地は子音と母音が独立して存在する土地ですので、私達が五線譜を用いて西洋楽器的な技法で歌おうとするならば、「同じ方法」を用いる必要があります。子音と母音を分離しなければ西洋器楽的な響きは得られません。

英語やイタリア語などを話す人達が無意識レベルで身につけているものを、我々日本人は意識的に身につける必要があります。

 

むこうの人たちが日本語を喋る時、「外国人っぽい発音」だと我々は認識します。

彼・彼女らにとって「ま」は「ma」ですし、「た」は「ta」です。

それはもう無意識で私達とは異なります。

 

子音と母音に時差が生まれたときに初めて、声帯の振動の仕方が「声楽的」に成り得ます。でなければ、本来は子音がタンギングのように空気の抵抗を担い、母音が楽音を担う、という役割分担がなされず、声帯の振動が始まるその時に声帯で空気を一瞬止めてしまったり、舌根も固くなりやすくなり筋肉に不必要な緊張が入り、器楽的に楽音を奏でることが難しくなります。

これができるようになるためには、まずは違和感をたくさん味わいながら「外国人の発音」を模倣することです。カタコトで日本語を喋っているように子音と母音に時差をつけて発音しましょう。

②歌は吸気から~予備動作の重要性

歌は吐く息(呼気)からはじめない

さて、歌い出しについてです。
歌は必ず「吸う息」からはじまります。それは即ち「バックスウィングのある歌い出し」をするということです。

 

肉体を使った何らかの技術的なお仕事等をされている方は、技術習得において呼吸の担う役割の重要さを認識されているかと思いますが、普段の日常生活の中で呼吸を意識している人はそう多くはありません。

例えば我々がジャンプする前には予備動作がありますね。

人や物体の動きにはこのような予備動作を観察することができます。

この予備動作がバックスウィングのことです。

 

歌において、呼吸はそのまま演奏の質を露骨に左右するとても大きな課題です。

息を「吸っているときにできること」と「吐いているときにできること」は異なります。したがって、歌において、吐く息になってから何かをやろうとしても既に遅いという現象が起きます。

ボールの投球に例えると、手から離れたボールがどのように動くのか?を研究する時、「手から離れるまでの間の動き」に着目すべきですね。
空気は断続的に動いていますから、歌い始めたらそれっきりというわけでもありませんが、何らかの現象には必ず原因があります。

音楽は、音になる前に全てが決まっています。
耳に聴こえた音、体感、全ては「結果」であり、「結果」を直接コントロールすることはできません。

吸う・吐く・吸う・吐く・・・・と繰り返される「動き」は、我々が普段から目にする「自然の動き」のひとつです。

 

身近なところで目にするこの動きは?
…ブランコ・振り子と同じです。

歌い出しは必ずブランコの揺れの端っこにあります。

息を吸い、吐く息に入る前に一瞬、無重力のような体感と共に動きが止まります。そこからゆっくりと空気が動き出し、声が立ち上がります(声帯の振動が始まる)。この自然の中の動きに乗っかって始めてコントロールが可能な歌い出しとなります。
この時点で、ブランコの動きを無視したような歌い出しをすると呼気圧が過剰になり自由に歌うことができません。

ジャンルを変えれば目的とする音や環境が異なりますので呼気圧の具合も様々ですが、器楽的な機能を最大限に活かす時の歌い方として、声帯の振動の始まりは上記のようなブランコのスウィングの中にある必要があります。

 

アニメーション制作における基礎として、動きの始めをゆっくりにし動きの終わりをゆっくりにする「スローインスローアウト」というテクニックがあります。これはブランコ・振り子の動きでも同様の動きを観察することができます。

動きをより自然に描画するためのテクニックですから、これは自然な動きを見つけるには大きなヒントになります。
予備動作や動きの緩急に着目し、身近なものを観察すると、そこには歌唱のヒントがつまっていることがあります。

歌は空気を扱います。
ですが、私たちは空気をこねたりして直接コントロールすることができません。
理にかなった動きを理解し、そこに誘導する、というのが歌唱におけるテクニックなのです。

 

①ボイストレーニングとヴォーカルトレーニング

※こちらの記事は5年ほど前にnoteで販売していた記事に少し手を加えたものになります。

はじめに

天性のもので最初から達者に歌えるという人も中にはいますが、技術というものの多くは凡人が天才のスキルを研究して発展してきました。
上達のためのテクニックとは即ち、凡人がいかにして美しく歌えるようになれるのか?ということの追求です。

ここでは、凡人であった私がいかにして現時点の歌唱力まで到達したのか?その考え方や方法を書いていきます。

諸注意として…私は今は色々なジャンルを歌っていますが、基本的には声楽を学んできた人間です。

世の中には様々なメソッドが存在します。また、人の好みによって心地よく感じる音も違うでしょう。そこには文化的な背景もありますので絶対的に「正しい」と言えるようなものは存在しないと私個人は考えております。ですので、「万人受けするものではない」という前提はご了承の上、読み進めていただければと思います。

ボイストレーニングとヴォーカルトレーニング

私が主に扱っているのは声楽で、「声を器楽的に扱うにはどうしたらよいのか?」という、ボイストレーニングよりはややヴォーカルトレーニングに寄った内容になります。

声楽を教えている方は「ボイストレーニング」もしていることが多いです。合唱団の指導に来ている声楽家も、その多くは「ボイストレーナー」を自称しています。
ボイストレーニングとヴォーカルトレーニングは、似ているようで少し目的が違うものですので最初に簡単に触れておきます。

 

ヴォーカルトレーニングの訓練がボイストレーニングを兼ねる部分もありますが、そもそも運動機能に大きな偏りなどを生じていたりする場合はヴォーカルトレーニングよりもまずボイストレーニングに特化した訓練をする必要があります。

たまに訓練してないのによく声が出る人がいます。
そのような人が「才能がある」と言われたりしがちですが、そういった人の多くはその人個人の習慣により、「声を扱う運動機能が充実している」場合が多いです。

声楽家は総じてもともとおしゃべりな人が多いです。また、運動部で日常的によく声を出している男子などが合唱の助っ人に入るとカタチになりやすい現象が起こったりします。
発声することにも筋肉を使いますので、よく運動している人は動けます。同様に、よく声を使っている人は声が出ます。歌も同じなのです。

加齢や会話の減少などにより声帯萎縮がおこる場合がありますが、年齢が若くても日常生活において無口な人にも起こり得ます。この場合、衰えた筋肉により声門閉鎖不全などの状態になり、発声器官がうまく機能しません。こういったケースでは歌唱訓練以前にヴォイストレーニング(声の筋トレ)が必要です。そんなに普段から声を使っていないのにも関わらず声にかすれがみられる場合は疑ってみてもいいと思います。
あまり人との交流が無い老人の一人暮らしなどでは、こういった症状が珍しくないようです。また、症状の中には息を止めて力を入れる場面で息漏れが起こるため「力が入りにくい」などもみられるようです。

そもそも声帯がうまくあわさっていない場合は声もうまく出すことができませんので「しっかりと声帯が閉じることが出来るようになる」ことが先になります。
声帯閉鎖がうまくいかない場合は、「エッジボイス」などの練習が効果的です(エッジボイスは検索するとたくさん出てきます)。

ただ、違和感があるのに自己判断するのではなく、まずは専門の医療機関を受診してください。何らかの病気が隠れている場合があります。

 

何らかの競技をやる時、ランニングや筋トレの基礎体力・筋力づくりは必須です。病気や怪我があるのならば治療が必要です。それが揃っていて初めて「競技に必要な動き」ができるようになります。そして、それらの動きが可能になってから適切な動き方(技術)の訓練が可能になります。

・ボイストレーニングは基礎体力・筋力づくり
・ヴォーカルトレーニングは競技をプレイするにあたっての適切な動き方の訓練

という具合に説明することができるでしょう。

 

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